【夢の方舟出航!】


 あれは5月27日のこと。全日本プロレス郡山大会を観戦に行った山杜,大蔵,小沢の採鉄場取締役一同は,楽しく観戦しつつも,興行に何か違和感を感じていた。その違和感が何であるのかは,その時点ではまだ分からなかった。いつもと同じ風景に見え,だが,何かが違うような気がする。そんな興行だった。

 観戦後,我々は夕食を摂るため,市内の焼肉店に向かった。焼肉を食べながら,興行を振り返る3人。そして,そこからともなく,全日分裂の噂に関する話になった。ネット上や雑誌などでもたびたび噂されてきた話である。しかし,鉄壁を誇る全日本。噂は噂でしかない,という見解のまま時は過ぎていた。大蔵が口を開いた。

「(分裂は)あり得る話だと思うよ」

「やっぱりそうかねえ」

山杜はそう相づちを打ちつつも,まさか今日明日の話ではないだろうとタカをくくっていた。その翌日,三沢が社長職解任となることも知らずに・・・。

 スーパーパワーシリーズも終わり,サマーアクションシリーズまでのオフに入ったとたん事件は起きた。6月12日,東京スポーツが三沢が5月28日付で社長を辞任していたことを報道。プロレス業界は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。様々な憶測が飛び交う中,次々と事実が明らかになっていく。驚かされたのは,ほとんどの選手が4月1日から正式契約を交わしておらず,フリーの立場だったことである。そしてついに三沢退団。川田と渕を除いた全日本所属選手全員が三沢に追随。三沢新団体旗揚げが確実となった。

 思えば全日改革を行ってきた三沢だったが,昨年のジャイアントシリーズ以降,めぼしい改革が無かった。チャンカンではトーナメント制を復活させるなど,三沢改革健在を思わせたが,賛否両論は必死だろうとも思えた。やはり内部では,かなりの紛争が起こっていたのだろうか。社長でありながら,社長権限を存分にふるうことができなかった三沢。ストレスのたまり具合は並大抵のものではなかったことだろう。しかし,今度は存分に自分で舵を取ることができる立場となった三沢。記者会見の晴れやかな笑顔。理想のプロレスを目指し希望にあふれる三沢がそこにいた。

 一方,選手のほとんどが抜け,存続の危機に瀕した全日本プロレス。しかしここに来て藤原,人生をはじめとする大物レスラーの参戦,さらに衝撃的だった天龍の復帰などで一気に盛り上がってきた。さずがに老舗,馬場さんの遺志に沿うかどうかは別として,そうやすやすとは廃れない。

 NOAHの旗揚げが近づいてきた。資金的な面,外国人レスラー参戦に関する面,まだまだ不安はつきない中での旗揚げだが,最も深刻な不安は,ほぼ全員の選手が元全日本の選手だということである。全日本がこれだけの劇的変化を遂げている今,NOAHが旧全日本のままだったら,おそらくファンはついてこない。いきなりスタイルを変えることは難しいだろうが,旗揚げ戦でどれだけのインパクトを残せるかが勝負となる。果たしてどれだけの新しいものを見せてくれるのだろうか。期待も大きいが,不安も非常に大きい。プレッシャーをはねのけて,三沢率いるNOAHの全選手・スタッフが,一世一代の大舞台を成功させてくれることを祈っている。

 山杜が信条としている言葉がある。

「(夢)+(努力)=(現実)」

夢は努力を積み重ねることにより,いつか現実となる。今は夢である「理想のプロレス」が,現実となって我々ファンの前に姿を現すことだろう。努力の人・三沢ならそれができると確信している。

 多くの夢を載せたNOAHの方舟は,今,出航の時を迎える・・・。

(文責:山杜一平)


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