【大森隆男考】


 昨年がバーニング・アンタッチャブルなら今年は大森と高山であろう、これは全日本を知る人ならば異論はないはずです。今年の2人の活躍は間違いなくベストタッグにエントリーされるはずです。中でも大森については長年この日を待ちわびた人も多いでしょう。最強タッグ・カーニバルへの度重なる出場、アジアでの防衛などそれなりの扱いは受けてきましたが、あくまで中堅としてのポジションに落ち着いてしまった感が否めませんでした。台風の目として毎年期待はされるのですが結果が出せず、ライバル秋山との差は歴然としたものでした。それがFMWに流れたアジアを奪還すべく組まれた半ば政治タッグで見事に開花し、世界タッグ初挑戦にして初戴冠という輝かしい足跡を残したわけです。防衛戦は残念ながら三沢組の前に涙を飲む結果となりましたが、負けたとはいえ大森は変わったという印象を多数のファンに植え付けました。これは勝敗に関係なく今後の大森にとっては重大な要素となるはずです。

 先シリーズ最終戦の武道館、秋山とのメイン・シングル戦はその証拠といえましょう。これはなによりもファンが見たいという意思で選択された結果ですから、ようやく大森がファンに認められ後押しされたいうことです。試合内容も決して悪いものではありませんでした。初の武道館メイン、シングル戦ということを考慮すればあれだけの試合を展開できればまあまあ合格点はやれると思います。三沢がマスクを脱いで始めて武道館のメインに立った時、相手はジャンボ鶴田でしたが、あの時は三沢ですら地に足がついてませんでしたから大森だってあの武道館の試合はある程度評価しなくては気の毒です。

 ですが、これからの課題も幾つか垣間見れたのもこれまた事実です。元来、攻守のバランスや試合のリズムが悪い選手ですから、受けると極端に弱々しくなったり最後のたたみ掛けの悪さが目立ったり、間が悪かったりなどポイントポイントでの仕掛けるタイミングは見ていて歯がゆさが残ります。これは武道館の試合だけに関わらず通常の地方興行でも見受けられます。例えば三沢や川田、小橋、秋山などは最後の仕掛けるタイミングやたたみ掛けの速さなどは見ていてもはっきりわかります。特に三沢などは受けの天才と評されるように、これを受けたら…と思われる所での切り替えしには定評がありますよね。このあたりの巧さというか技術が備わって欲しいのです。試合のポイントでの動き、攻守のバランスなど動き全体にさらなる変化や成長を期待したいですね。

 また昨年の武道館で組まれた秋山−小川戦のようなリズムのよい引き込まれる試合が展開できればと思う所です。これは小川という存在がキーポイントなのですが、では大森−小川の場合にあれだけ観衆を引き込めるかといえばそれは難しいと返す他ないはずです。秋山−小川戦などは従来の全日本で展開されているような技の攻防ではありませんでしたが、観衆がおおいに沸き誰もが面白い試合だったと口にし高い評価を下したはずです。確かに技も肝心なのです。今の全日本では最後のフィニッシングブローは頂点に立つか立たないかに大きな影響はもたらします。ですが93年10月の武道館で行われた特別試合の川田−小橋戦は逆水平とバックドロップの意地の張り合いだけで年間最高試合を受賞、先に述べた通り秋山−小川は大技もなく流れ、噛み合わせだけでファンを魅了しました。ここに大技やフィニッシングブローが加わればそれこそ三沢−川田や三沢−小橋のような三冠を賭けた大一番が出来てくるのかなと思います。良い試合とつまらない試合の鍵を握るのは噛み合うか否か、そして間合いの取り方と言っても決して過言ではありません。大森はどちらかといえば独特のペースを持ちますが、得てしてそのペースは見ていて心地よさに欠ける所がありますからこのあたりの変化も注視すべき点ではないでしょうか。

 いずれにせよ今年の大森は大きな成長を遂げました。最強タッグにも高山とのコンビで出場のはずです。以前、カンナムはタッグ屋としてその存在が貴重でしたが、おのおのシングルでは特に目立った活躍は出来ませんでした。大森・高山組にはタッグチームとしてまたさらにシングルプレーヤーとして全日本をリードしてもらいたいし、いずれは三冠挑戦そして戴冠と頂点を極めて欲しいですから、今の勢いの持続と一段の成長を願っています。でもそれにはまだ見ていて足りない所があるわけですから、今以上に精進して四天王や秋山の存在に風穴をあけてほしいものです。

(文責:大蔵栗雄)


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