【遅すぎるよ!大森隆男!!】


 7月23日,'99サマーアクションシリーズ最終戦日本武道館大会セミファイナル世界タッグ選手権試合。挑戦者「ノーフィアー」大森・高山組が見事な勝利を収め,世界タッグチャンピオンの座に輝きました。TVで観戦した私は,「おおっ,ついに獲ったか!」と感嘆したと同時に,「遅いんだよー大森!」と苦笑しながらも大森選手を祝福しました。今回は高山選手は置いておいて(失礼),大森選手に対する祝福のメッセージとして,コラムを書きたいと思います。

 王道魂のコラムや掲示板のコメントなどでもお分かりのように,私こと山杜は大森選手に常に期待してきました。理由は数あれど,まず最初にくるのは,デビュー戦の会場が我が故郷会津の「会津体育館(現・鶴ヶ城体育館)」だということです。いわば会津は「レスラー・大森隆男」の誕生の地。私にとって大森選手はご当地レスラーなのです。そしてもう1つは,秋山の同期だということです。鳴り物入りで全日本に入団し,その後多少の挫折はありながらも,順調に成長していった秋山に対し,大森は常に陰の存在でした。同期コンビとして2人でアジアタッグを保持していたときも,どうしても大森は「格下」の扱いを受けていました。私は基本的に,反エリート&判官びいきです。いつか秋山よりビッグになって欲しい,そんな思いがあったのも当然だったと思います。

 これまでを振り返ってみると,大森にもジャンプアップするチャンスは無かったわけではありません。ハンセンのパートナーに抜擢されたときなどは,最大のチャンスだと思ったものです。しかし,レスリングの組み立ての悪さ,試合運びの未熟さ,そして何よりもフィニッシュホールドが無いことにより,鳴かず飛ばずが続きました。秋山が四天王に並び,「五強」と称されるようになったにもかかわらず,大森はまだまだ中堅の域を脱する兆候さえ見えない・・・。このまま同期の2人の差は広がっていくばかりなのではないか,そんな気さえ起こりました。99年に入っても,多少の勢いは感じられたものの,カーニバルでは新崎人生にも敗れ白星なし。ドームでも元三冠王者トリオにいいところなしで敗れ,「やはり口だけか」と思わせる上半期でした。

 しかし,高山とのチーム名が「ノーフィアー(怖いものなし)」に正式決定し,チームとして本格的に始動したころから,大森は変わりました。全日のレスラーとは思えない威勢の良さ,大放談。全日らしくないからやめて欲しいという意見もありましたが,これによりノーフィアーは自分たちにプレッシャーをかけていったのでしょう。TV中継でも大々的に取り扱われた以上,結果を残さなければ大ボラ吹きで終わってしまう。有言実行にできるかどうかは,自分たちの努力にかかっているのだと。結果,ノーフィアーの大博打は成功したといえます。大森もチーム結成が間違っていなかったと思っていることでしょう。

 ノーフィアー結成以外に大森を変えたもの,それはやはり「アックスボンバー」だと思います。初公開のとき,「アックスボンバー!」と叫びながら繰り出した話を聞いて,「寒いことやったなあ」と感じた私でしたが,同時に,嬉しさがこみ上げたのを覚えています。その理由とは・・・。

 先程も書きましたが,これまでの大森にはこれだ!というフィニッシュ技がありませんでした。ダイビングエルボードロップ,ダイビングニードロップとフィニッシュ技が変化していきましたが,「説得力のあるフィニッシュ」として定着しなかったように思います。理由として,どちらもコーナーに登る技であること。どうしてもタイムラグができるため,そこまでの痛めつけ方が足りないと,あるいは登るまでが異様に遅いとかわされて自爆するおそれがあり,さらに自分のダメージが大きいと,コーナーに登る姿が不格好に見えてしまうこともあり,どうにも「かっこいいフィニッシュ」には映りませんでした。

 秋山の場合,ノーザンライトスープレックス,ジャーマンスープレックス,そして裏投げとキャプチュードを合体させたエクスプロイダーと,常にスープレックスがフィニッシュとしてファンに定着してきました。これに対して大森はどんなフィニッシュが似合うだろう,と当時私は考えました。そして,「ハンセンと組んだこともあるし,ラリアットはどうだろう」という結論に行き着きました。上背はあるし腕も太いし,いける!と思いましたが,結局大森が選択したのは「ダイビングニードロップ」でした。その後,小橋がラリアットをフィニッシュに使い始めたため,大森がもし使っても二番煎じにしかならず,私の構想は見事に砕け散った・・・かに思われました。しかし,突如登場した「アックスボンバー」。私は自分の構想を大森が受け入れてくれたように感じ,大森の飛躍を想像せずにはいられませんでした。

 思えば,私が小学生の頃,スタン・ハンセンと並んでハルク・ホーガンが大人気でした。友達を左腕で殴りつけては「ウエスタンラリアットー!」,右腕を曲げて殴りつけては「アックスボンバー!」と叫んでふざけあっていたものです。「イチバーン!」のかけ声もクラス内で毎日のように聞かれました。サッカーの地区大会で優勝したときなど,記念撮影でカメラに向かって全員が「イチバーン!」をやっていたことなども懐かしく思い出します。そう,当時どちらかといえばホーガンの方が人気があったのではないでしょうか。あの時以来,私の記憶からも消え去っていた「アックスボンバー」。大森が復活させ,継承していってくれることは,大森自身の飛躍はもちろん,かつての少年たちの夢をも蘇らせてくれると言ったら言い過ぎでしょうか。

 小橋のラリアットもそうでしたが,以前はフィニッシュ技ではありませんでした。使い込むたびに熟練度が増し,誰しもが認める必殺技へと成長したのです。大森のアックスボンバーも,使いはじめの頃よりは威力が上がってきたはずです。そうでなければ世界は獲れませんし,大森がアックスボンバーのアピールをしたとき,あんなに客が沸くはずもありません。もうすっかり,フィニッシュ技として定着した証拠です。不思議なもので,アックスボンバーが定着してからは,ダイビングニードロップの説得力も上がったように感じるのは気のせいでしょうか。かつてホーガンは「超人」と呼ばれました。その技を受け継いだ大森も「超人」と呼ばれる選手になって欲しいものです。

 これからの大森選手に望むこと,それはもちろん,三冠王座の奪取です。今はまだ,高山選手とのタッグに全神経を注いでいることでしょうから今すぐには無理かもしれません。でも,2000年中には王座を獲得して欲しいです。そしてできれば,三冠は秋山選手から奪取して欲しい。1ファンからの,難しいお願いだとは思いますが・・・。

 以前,パソコンゲームに「レッスルエンジェルスV2」という女子プロカードバトルゲームがありました。このゲームには2人の主人公「武藤めぐみ」「結城千種」が登場します(誰がモデルかは分かりますよね?)。2人は同期です。プレイヤーはどちらか1人を選んでゲームを進めます。私は「結城千種」で物語を進めました。そしてクライマックス,2人による世界タイトル戦。実況「ファウルチップ福澤(笑)」がここで入れたナレーションが,秋山と大森の三冠戦を想像させました。うろ覚えで恐縮ですが,以下に記したいと思います。(本当の文は「秋山」が「結城」,「大森」が「武藤」です。また「三冠戦」も別の名称です。)

 「苦楽を共にし,称え合い,励まし合い,時には啀み合いながらも培ってきた同期という名の絆。その絆を持つ2人による世界タイトル戦が始まろうとしています。王者・秋山準VS挑戦者・大森隆男。常に1歩も2歩も先を歩んでいた秋山に対し,その背中を追い続けていた大森。しかし,今宵,このリング上においては,これまで歩んできたその道のりは関係ありません!今持っている力,実力がすべてです!  いよいよ始まります,三冠ヘビー級選手権試合!最後にカクテル光の下に立っているのは,果たしてどちらなのでしょうか!!」

 このように,秋山選手との三冠戦,そしてゆくゆくは秋山選手とのコンビで世界タッグを保持することも期待しています。大森選手が「世界」に到達した今,私の想像はどこまでも広がっていきます。

 とにかく今は,ノーフィアーとして世界タッグの防衛を1回でも多くしていって欲しいと思います。何はともあれ,おめでとう大森隆男選手!!そして高山善廣選手!!

(文責:山杜一平)


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