【レスラーの知名度とプロレスの立場】


 先日,日本テレビの某番組で,三沢選手が「大きなかぶ」に扮装し,幼稚園児たちと綱引きをする企画が放送されました。スタジオではかなりの笑いをとっていたようですが,おそらく,観客のほとんどは三沢光晴というプロレスラーを知らなかったのではないでしょうか。ゲストの皆さんも,半分以上の人が知っていたか怪しいものです。果たして,お茶の間ではどれだけの人が三沢を知っていたのでしょう?

 ジャイアント馬場さんが亡くなられ,アントニオ猪木,ジャンボ鶴田,長州力,前田日明らは引退。プロレスファンでない人でも知っているプロレスラーがだんだん少なくなってきている気がします。プロレス中継がゴールデンタイムから撤退して早10年以上が経過しようとしていますが,そのことが最大の原因であることは否めません。深夜番組として放送している以上,何気なくテレビが付いていてプロレス中継を見ている,というシチュエーションはあり得ません。深夜のプロレス中継を見るのは,プロレスファン以外はまずあり得ないのです。ファン以外の人がレスラーを知るには,その他の番組に出演しているのを見るか,CM出演を見るかぐらいしかないでしょう。

 特に全日本プロレスは,今まで馬場さん以外のレスラーがバラエティ番組やCMに登場することは全くと言っていいほどありませんでした。そのため,全日のレスラーの名前を挙げても,即座にプロレスラーだと分かった友人は,私の周りにはあまりいませんでした。四天王の名前を挙げても知らなかったのは少なからずショックでした。

 おそらく,新社長の三沢もそのことは充分過ぎるほど実感していると思います。前社長の馬場さんは,生まれたての赤子を除けば,日本人ならほぼ全員が知っていると言っても過言ではないほどのレスラーでした。全日本プロレスの興行が順調だった陰には,馬場さんの知名度は少なからず貢献していたことでしょう。しかし,今の全日本に馬場さんは居ません。社長自ら知名度を上げること,これも必要だと三沢は思ったのではないでしょうか。

 綱引きの後も,三沢はたびたびテレビ出演を果たしています。日本テレビの番組だけに収まらず,他局へも進出しています。三沢の名が広く世に浸透することは,プロレスファンにとっても喜ばしいことです。今後の全日本の成功のため,そしてプロレス界の活性化のためにも,レスラー全員の知名度アップは必要不可欠だと思います。言い方は悪いかもしれませんが,三沢には「馬場さんの跡継ぎ」という部分もアピールして欲しいと思います。なぜなら,私としては,新しいファン層だけではなく,オールドファンの皆さんも大切にして欲しいと思うからです。

 生前,馬場さんはこうおっしゃられていました。

「僕は,プロレスを,プロ野球をはじめとする他のプロスポーツと同じくらい世間に認められるスポーツにしていきたいと思っているし,そうしていく使命を持っていると思う」

三沢社長には是非,この遺志を受け継いでいって欲しいと思います。確かにプロ野球選手の知名度は,プロレスラーの比ではありません。逆に言えば,プロレスがプロ野球並に世間に認められれば,プロレスラーもプロスポーツ選手として,世間一般に認められることになるのです。今回の三沢のTV出演が単なる宣伝で終わるのではなく,プロレスそのものが日本人にとってメジャーなスポーツになっていく,その第一歩になって欲しいと願ってやみません。

(文責:山杜一平)


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