【小川と菊地 2人のジュニア】


 数年前,全日本プロレスの目玉が「鶴田軍vs超世代軍」だった頃, 両軍のNo.4の地位にそれぞれ若手のジュニア戦士がいました。 そう, 小川良成菊地毅 の両選手です。 ジュニアのライバルであった2人は,この軍団抗争の中で鎬を削っていました。

 ここ2,3年で全日本プロレスファンになった方のためにご説明いたしますが, 「超世代軍」とはもともと,打倒「完全無欠のエース」ジャンボ鶴田を掲げ, 当時成長株であった 三沢光晴 を筆頭に, 川田利明小橋健太菊地毅 の4人により結成された軍団でした。 それを迎え撃ったのが ジャンボ鶴田 と,そのタッグパートナーに大抜擢された 田上明, そして 渕正信小川良成「鶴田軍」の面々でした。

 鶴田軍と超世代軍は,連日のように6人タッグで相見え,激しい攻防を繰り広げました。 もちろんその闘いの中には,小川,菊地両選手も含まれていました。 小川は渕と並び,流れを作る重要なつなぎ役として, 一方の菊地は気迫でぶつかる切り込み隊長的存在として,己のポジションを築いていました。

 では,その頃の両選手に対する観客の反応はどうだったでしょう。 最近ファンになられた方には信じられないことかもしれませんが, 観客は大半が菊地の方に大きな声援を送っていました。 要因としては,全日本の流れを変えようとする若い集団「超世代軍」の一員であったこと, そして何よりも,鶴田に何度叩きのめされても向かっていく,闘志溢れる玉砕ファイトが挙げられます。 当時着用していた「日の丸タイツ」も手伝って,「日の丸特攻隊」とも呼ばれた菊地は, ファンの声援を集め,一躍人気者となりました。

 一方の小川は,菊地と比較するとあまりにもそのファイトが地味でした。 身軽なジュニアであるにもかかわらず,空中殺法を見せるでもなし, インパクトの強い得意技があるわけでもなし,菊地のように叫び声をあげるでもなし・・・。 試合の流れを作るその巧さには,通なファンの間で定評があったものの, どっしりとしたレスリングをする鶴田軍に在籍していたことも手伝って, 多くのファンには受けが悪い選手でした。

 ファンの声援というものは大変影響力があります。 当時連続防衛を続けていたジュニアヘビー級チャンピオン・渕正信への挑戦回数も, 圧倒的に菊地の方が多かったです。 また,小橋という強力なパートナーがいたこともあり,菊地はアジアタッグ王座にも輝いています。 あの頃,時代は菊地を選び,後押ししていました。 小川はパートナー不在でアジアへの挑戦もままならず,ジュニアへの挑戦権もなかなか巡って来ず, 小川自身はもちろん,小川ファンにとっても厳しい時代でした。

 私は昔から,小川良成というレスラーを高く評価していました。 菊地に対する声援が飛び交う中,私は 「菊地よりも小川の方が断然レスリング巧いのに,何故評価されないんだ?」 と,いつも思っていました。 そして,「菊地より先にジュニア王座に就いて欲しい」と願っていました。 やがて私の願いは叶い,小川は菊地より先にジュニアのベルトを腰に巻きました。 しかしそれでもまだ,小川は報われていないような気がしてなりませんでした。

 月日は流れ,98サマーアクションシリーズ。小川は三沢からタッグパートナーに指名され, 今やトップグループの一角である秋山からピンフォールを奪うなど, ファンの大声援を一身に浴びる存在になりました。 私は小川選手に対し 「おめでとう。長年コツコツやってきた苦労がやっと報われたましたね」 というお祝いを述べたい一方,多くのファンに対して, 「小川の良さに気づくのが遅すぎるんだよ!」 という言葉を,声を大にして叫びたい気持ちです。

 かたや現在の菊地は,何か路線が変わってきてしまいました。 小川とはジュニアをめぐるライバルであったはずなのに, いつの間にかファンの間で「小川には勝てない」という意識が定着してしまったようです (ジュニア王座決定リーグ戦の不振が響いたか?)。 前座でなにやら得体の知れないキャラクターと化してきた菊地。 超世代軍の頃の菊地を知っている者としては寂しい限りです。 いつまでも若くはないのですから,玉砕ファイトではもうやっていけなくなったのは分かります。 しかし,小川がこれだけ注目されているのに,菊地は悔しくないのでしょうか。 小川のヘビー転向の是非について揉めている今だからこそ,もう一度菊地に奮起して欲しいのです。 今,全日ジュニアは,せっかく盛り上がりかけたのに, 防衛戦が行われないばかりに,また盛り下がってきています。 全日ジュニアを活性化していくためには,現王者の小川の力だけではなく, 菊地の力も必要である気がしてならないのです。 (もちろん浅子や金丸の奮起にも期待しています。志賀はできればヘビーになって欲しい・・・)

 早くにブレイクした菊地,遅咲きの小川, 超世代軍,鶴田軍をそれぞれ縁の下から支えた選手です。 この2人には,これからも全日本になくてはならないレスラーとして, 頑張っていって欲しいと願っています。

(文責:山杜一平)


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